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田舎で底辺暮らし

貧乏喪女がネットの気になる話題など、雑多にあれこれ書いてます。

 

石井桃子「家と庭と犬とねこ」を読了

くまのプーさんやピーター・ラビットなど多くの海外児童書の翻訳を手がけ日本の児童文学普及に多大な貢献をし、また自らも執筆活動を行った石井桃子氏の随筆集「家と庭と犬とねこ」を読んだ。

家と庭と犬とねこ

家と庭と犬とねこ

1907年から2008年の101歳まで生きたというすごい人だが、彼女の亡き後、随筆をまとめたものがシリーズとして出版されており、これはその一冊。
石井氏の生活に密着した内容で、素朴で何とも言えないあたたかみのある文章なのだが、日常から感じる鋭い疑問など非常に興味深い内容が多かった。


まず何に驚いたって、60年も前の生活と今の生活の根本にある問題がなにも解決されてないってとこだ。

都会にいて、出歩く仕事などをもっていると、仕事そのものよりも、まずそのまえに、あっちへいったり、こっちへいったりで神経をすりへらしてしまう。

これは1954年の随筆の一文なのだが、満員電車に苦心している著者の心情を綴っている。
行列に並び、満員電車に乗り込めば、力の強いものや俊敏なものから座席を占領し、悠々と新聞を広げる。
その良識とはかけ離れたありさまを映画にして大人に見せれば、いい教科書になるのではないか、と綴っている。

石井氏はこういう都会での生活に疲れて心を痛めているようで、そういった内容が沢山あった。

他にも、18歳くらいの女性読者から送られてきた手紙を作中で紹介。
彼女は村の農協で働いているのだが、仕事をしながら東京の通信教育を受けたいと思っている。
しかし、残業が続いて、帰宅すれば夜の11時になっており、疲れ果てて勉強どころではない、それがつらいのだと。

仕事が、それほど多いというのではないけれど、みんなおそくまでいるのが、精勤というように、早く終わった時でも、帰ろうとしないので、下っぱのK子さんには、なおさら早く帰れない。

これも1954年の随筆だ。
しかも、残業分の給料は支払われていない。
石井氏は労働法などについて助言するのだが、結局彼女は体調不良で退職し、弟の進学費のためにお金を工面したいから東京で女中先のを斡旋してほしい、というお願いされて、おろおろとなんとか働き口を紹介してやるのだった。

ていうか、2014年になった今も満員電車もサービス残業も、なんも変わってないっていう…
この60年、何も改善されてない現状ってなんだろう、って思ってしまった。

物質的には昔より恵まれたけれど、都会や労働の抱える根深い問題点がいまになってもずっとそのままって、ぞっとする。


他に興味深かった点として、戦後間もない時代に、女友達と協力し、農村生活を営んだことだ。

石井氏は、戦争末期に見学に行った軍事工場で秋田から生徒を引き連れてきた女学校の先生に出会う。
このK先生が、とても人柄の良い人物だったようで、二人は意気投合し、石井氏はこの工場の寮で一緒に寝泊まりして、K先生に内心の夢を語る。
それは、都会を離れて、小さな牧場をひらきたいということ。
それにK先生が「じゃあ一緒にやろう!」、と言って本当に実行する。
玉音放送は、当時農業生活のために間借りしていた東北の農村の民家で聞いたとか。

しかし、女だけで山ごもりするとなると、嫌な反応も色々とあったようだ。

私が私の意志で、女だてらに、山のなかで土だらけになって暮すということになってみると、事はずいぶん面倒らしかった。

これが夫の仕事の都合などと説明すれば、日本中の人間は納得するのに、女だけだと知ると、隙をつくようにあれこれ言ってくる人がいると嘆いている。

村人たちも最初は出兵中の夫を待っているのかと思っていたらしいが、いつまでたっても女だけの集団(K先生の教え子なども加わった)で農作業に出かけるので、密かにマッカーサー部隊と名付けられたりしたようだ。
ちなみに、体も声も大きいK先生がマッカーサーと呼ばれ、村の子どもたちはそれを本当の名前だと思い、「マッカ先生!」と呼んでいたとか。
結局、農家への居候をやめて、山の中に粗末な掘っ立て小屋を作り、そこで生活することにした、というサバイバルっぷりである。
この農村生活のどたばた劇だけでも、一冊分読みたいくらい面白かった。

石井氏は生涯独身だったわけだが、男性と結婚せず、気の合う女性と30代から心機一転新しい生活をはじめてみる、という生き方が存在していたことに、なんだか勇気づけられた
異性との結婚以外のロールモデルは、私が読書を通じて知りたいものの一つなので、こんなに面白い話が読めるとは嬉しい誤算だった。

また、作中、いくつも年の離れた少女などを「友達」としててらいなく表現している部分が多くあって、こういうふうに年齢を超えて友人関係を営めるって、とてもいいなぁ、と好ましく思った。

そして、実際に生活してみて感じる田舎と地方の格差など、弱者に寄り添った視点はしみじみと考えさせられる。

あ、ペットだった猫や犬の話もあるので、動物好きな方にもおすすめです。
(特に猫のキヌの話はもっと読みたかった)

みがけば光る

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プーと私

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