田舎で底辺暮らし

孤独に生きながら雑多にあれこれ書いてます。

製鉄の町を舞台にした「八幡炎炎記」の感想

大好きな作家、村田喜代子氏の新作を読み終わりました。

八幡炎炎記

八幡炎炎記

戦の年に生を享けたヒナ子は、複雑な家庭事情のなかで祖父母のもと、焼け跡に逞しく、土筆のように育ってゆく。
炎々と天を焦がす製鉄の町・北九州八幡で繰り広げられる少女の物語。自伝的小説。

面白かったー。
村田さんの作品は、女性の互助関係というか、女たちの関係がすっごく良いんですよ。
よくあるような女同士なんて裏ではどろどろした感情が渦巻いてるに違いない、女とはこういうものだ!みたいなのが全然なくて、読んでてストレスにならないし、にやりとするような面白くてリアリティのある関係を沢山書いてるので、すごく信頼してる作家。

熊本の遊郭を舞台にした「ゆうじょこう」は、特に女たちの連帯がすごく良かった。

ゆうじょこう (新潮文庫)

ゆうじょこう (新潮文庫)


で、今回も満足度の高い作品でした。

祖父母宅で暮らす小学二年生のヒナ子は、村田さん自身がモデル。
村田さんは家庭環境がちょっと変わっていて、ウィキペディアから引用。

両親の離婚後生まれたため、戸籍上は祖父母が父母となる。市役所のミスで一年早く入学通知が来たため、1951年小学校入学。

ヒナ子もそのままこの設定でした。
この設定は、他の短編などでちょいちょい出てくるし、エッセイでも色々と語られているので、村田さんの作品が好きならすぐに自伝小説だと気づきます。

祖母は人望厚く大柄で料理が苦手、祖父は肉体労働より器用に手先を動かして遊んでいる方が好きな人。
本当の母親(戸籍上は姉)は近所で再婚して暮らしている。
老夫婦との3人家族は寂しいこともあるけれど、祖母・サトの二人の妹家族や自分と同じような境遇の子供たちと関わりながら、なんだかんだですくすく育っているヒナ子。

この作品、ヒナ子だけじゃなくて、もう一人メインになっている登場人物がいます。
ヒナ子の祖母・サトの歳の離れた末の妹・ミツ江の夫である克美。
克美は人の女ばかりが欲しくなるどうしようもない男で、妻のミツ江も元は克美が弟子入りしていた紳士服屋の親方の妻。
広島から二人で駆け落ちして、ミツ江の親族を頼って八幡へ。
今は八幡で自分の店を持っているけれど、そこに服をオーダーしにやってくる男性の妻や愛人相手に不倫を繰り返す始末。
溌剌と育つヒナ子とはかなり対照的で、克美の生活は渦巻く愛欲と、女に手を出した顧客の男性たちにバレルのではないかという不安でいつもビクビク。

この克美とヒナ子の二人の視点をメインに、戦後復興真っ最中の大製鉄の町、八幡での賑やかな日常を描いています。

ヒナ子も可愛いのですが、祖母のサトがなんとも言えず魅力的で、算数はできないけど生真面目さから町内会の経理を任されてたり、病床の一番目の妹に奇妙な呪術を使ったり、知り合いの在日韓国人の奥さんが夫の酒乱から逃げてきたところを匿ったり。

女たちの連帯とは対照的に、克美やサトの夫・菊二など男らはいつも一人でふらふらしています。
その辺りの作者の冷静な視点も面白かったですね。

克美サイドは不倫ネタばかりなのでちょっと飽きる部分もあるのですが、ヒナ子が幼いながらも真剣に悩んでることとか、なんとなくユーモアのある祖母たちとのやりとりとか、当時の日常の風景がありありと浮かんで、どんどん先を読みたくなる本でした。

で、実はこれヒナ子が友達と仲違いしたままなど、ラストが中途半端なところで終わって不思議だったのですが、最後に「第一部 了」の文字が。
ということは、二部に続くということみたいなので、すごく楽しみです。