田舎で底辺暮らし

孤独に生きながら雑多にあれこれ書いてます。

ホラー映画「ミッドサマー」の感想

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Netflixで配信が始まりました。
色々と話題になっていたホラー映画でずっと気になっていたので、すぐに見てみました。

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

  • フローレンス・ピュー
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フォークホラーというジャンルらしいです。
野の花が咲き誇る美しいスウェーデンの森の奥で懐古的な暮らしを営む小さな共同体ホルガ村のカルト的な不気味さや恐ろしさが徐々に明らかになってくるという流れ。

カルトやエログロを牧歌的にコーティングしている感じとでもいえばいいのかな。
幻想的な背景な分、グロテスク描写が映えますね。
R指定なだけあって、結構攻めてる絵面が多いです。

幽霊が出てきたり怪奇現象があったりなんてことは一切なく、寧ろ結構シュールな場面が多くてそういう点では怖さはゼロでした。
映画館の大きい画面だとまた違うかもですが、いやでもそっちの方がもっと笑ってしまいそう…(ジョシュの足、大根かよって埋められ方でw)

ただ、自殺などショッキングなシーンをダイレクトに見せてるので、そういうのに引っ張られるとか苦手って人は気を付けた方がいいかもしれません。

ホモソーシャルの崩壊と旧来型ホラーへのアンチテーゼ

何が良いって男性グループが形成しているホモソーシャルとそれに大人しく追従している主人公ダニーの立場の入れ替わり方ですね。

もうね、ダニーの彼氏、クリスチャンの人間的な薄っぺらさったらないですよ(笑
ダニーもなんでそんなのと一緒にいるんだ、目を覚ませよ!って感じなんですが、身内を亡くした喪失感からこれ以上何かを失いたくないんだろうな、ってのは想像できるし、欧米圏のカップル文化の強烈さもあるのかな。

一緒にいても全然楽しそうじゃなくて、なんとも気まずい雰囲気のカップル。
あとクリスチャンがつるんでる男友達たちが露骨にダニーを見下して邪険にしてるけど、表面上は取り繕ってる感じの演出も日常にありふれててとても上手い。
そんな居心地悪いホモソーシャルに必死にまざろうとするダニーの痛々しさ…。

ダニーに必要なのはクリスチャンみたいなしょうもない男ではなく、おしゃべりできる女友達でしょって思うくらい冒頭からはっきり関係性のまずさが示されてます。

そのありふれたホモソーシャルをホルガ村に持ち込んだわけですが、男たちは各々が欲望のままに動いて次々に犠牲となり、クリスチャンは気づけば一人に。

そもそもホルガでは女性の立場が強いことがあちこちのシーンから見て取れます。
「おまけ」でついてきたダニーが男たちより熱烈に歓迎されて、祝祭の始まりをみんなに告げて仕切っているのは女性。
不穏な絵で綴られた「ラブストーリー」も女性が男にまじないをかけて思い通りにしていましたし、性行為の相手を選ぶのも女性側、クリスチャンに許可を与えるのも女性。
祝祭で選ばれるのはクイーン。

孤独だったダニーはいつの間にかホルガで居場所を確立。
(ホルガに馴染みそうな貴重な外部女性であるダニーを招き入れるために村人たちが用意周到に画策した賜物でもあるけど)
取り囲む女性たちはダニーの苦しみや悲しみに同調して一緒に泣いてくれるし、女王として崇められるまでに。

みんなに祝福されまくるダニー。
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その後ろでぽつねんとするクリスチャン。
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すっかり立場が入れ替わってしまった象徴的なシーン。

クリスチャンは決定的にダニーを裏切ったことで、ダニーの指名で生け贄として捧げられるわけなんですが、これまでのホラーで生け贄の定番といえば若い女!
それがミッドサマーでは、終盤の生け贄にされるのがほぼ男性ばかりなのも意図的なミラーリングを感じました。
これまで女をホラー作品がどう扱ってきたかっていうことと重ねてラストを見ると、カタルシスでダニーの笑みと重なりますね。
昨今の良作ホラーは、かつて当たり前だった女性蔑視を内包したホラーへのアンチテーゼがいい効果を生み出してると思います。

謎があちこちに散りばめられているので、それらを紐解くことで見た後も面白さを提供してくれる作品でした。