田舎で底辺暮らし

孤独に生きながら雑多にあれこれ書いてます。

歴史ドラマ「ジェントルマン・ジャック 紳士と呼ばれたレディ」S1の感想

アン・リスターという実在の女性の日記をもとにした歴史ドラマです。
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ドラマの存在は知っていて気になっていたんですが、なかなか見るチャンスがなくて、最近Amazonで検索してみたら見放題にはありませんでしたが購入とレンタルは可能だったのでレンタルで一気に視聴。
面白かったー!!

あらすじ・登場人物

1832年のヨークシャー西部のハリファクスが舞台。
叔父から緑豊かな土地と古い屋敷を受け継いで当主となり、地主業をやっている41歳のレズビアン、アン・リスターが主人公です。

ステッキを持って黒い色のマニッシュなスカート姿で、常に時計をチェックしてせかせか大股で歩き、旅に明け暮れ、知的好奇心と冒険心が旺盛で少しもじっとしていないバイタリティの塊みたいな人です。
頭の回転の速さとカリスマ性で、女性たちを手玉に取るのはお手の物。
そんな彼女は町の意地汚い権力者がリスターの所有地の炭坑から石炭を盗んでいることを知り、年老いた父親の忠告も聞かず対抗措置として炭坑事業に乗り出します。

その主人公と恋仲になるのが、両親と弟を亡くし姉は遠くへ嫁いでしまって広い屋敷に一人で住まう孤独な29歳の令嬢、アン・ウォーカー。
(二人とも名前が「アン」です。綴りが"Anne"と"Ann"で違うんですけど、日本語訳だとどっちも同じなのでちょっとシュール)

莫大な遺産を相続しているアン・ウォーカーはハリフォックスに越してきて、アン・リスターと10年ぶりに再会。

よく言えば初心で可憐な女性ですが、かなり繊細な性格で卑屈なくらい自信がなく自分の意見を通すのが苦手。
彼女には財産目当ての卑しい男ばかりが近付いてくるので、親戚たちが目を光らせているものの、過干渉な親戚の存在にも気後れしているのに断る勇気もない…。

そんなウォーカー嬢にとって、やりたい放題のアン・リスターは眩しい存在で、女性との色恋の経験が豊富なアン・リスターは、彼女が自分に惚れていることをすぐに察します。

炭坑事業で莫大な資金が必要だし土地の再建のために彼女を「妻」にしようか…なんて懐柔目的で近づいたものの、彼女に寄り添ううちに強く惹かれ合うようになります。

今までの恋の痛手もあり、愛する女性と「結婚」してどうしても一緒に暮らしたいアン・リスター。
しかし、二人の関係がうっかり露見してしまい、同性愛嫌悪から二人を別れさせようとウォーカー嬢にあることないこと吹き込む親戚たち。
ウォーカー嬢は板挟み状態で酷く精神的に追い詰められ、二人の関係は厳しいものになっていきます。

そして、もう一人重要な女性がマリアナというアン・リスターの元恋人。

今は怒りっぽいジイさんと金のために結婚しており、アンとは時々寝る友人兼愛人のような関係。
この人の存在が、歴史物で閉塞的になりがちなレズビアン関係に広がりを持たせてくれていてなかなか面白い。
夫がいながらアンと関係を持つだけあって色々と打算的な人物ですが、ウォーカー嬢の存在にジェラシーを隠しきれていないのが良いですね。
(レズビアンの嫉妬が大好き笑)
ちなみマリアナ役の人はアマプラで配信されている(海外のみ)「Ten Percent」でもレズビアン役を演じています。

三人とも実在した人物で、割りと日記に沿ってるっぽいのが凄い。

その他にも、個性豊かなリスター一家や使用人たち、ハリファクスで暮らす借地人たちの生活模様、炭坑事業などを巡ってばちばちにやり合うローソン兄弟、ウォーカー嬢の胡散な親戚たちなど、登場人物が多くて色んな要素が入り混じっているのでラブストーリーというより歴史ヒューマンドラマという感じで楽しめます。

ユーモアとシリアスのバランスが絶妙

フェミニズム的な要素もかなり意識して作られていて、見どころが多いです。

特にウォーカー嬢はこのドラマの中でアン・リスターとは対象的な「弱さ」の象徴みたいな存在で、自分の人生について考えることを放棄するために男との結婚を選ぶのか、自分に向き合って勇気を出して行動するのか、選択を迫られるわけですが、家父長制に取り込まれ子供もたくさんいてもう身動きできないまま横暴な夫のいいなりになっている姉の姿がリアルな未来図になってて、なんとも上手い。

あと個人的には、レズビアン作品にありがちな変に「官能的」じゃないのがとても良かったです。
こういう歴史物だと余計にね。
作中、ラブシーンがちょいちょいあるんですけど、メインキャラたちの裸のシーンは全然なくて、ちゃんと意図されたラブシーンとして機能しています。
(加えて、ヘテロのラブシーンは一切なし)

何より特徴的だったのが、主人公(と一部のキャラ)が見ているこっちにカメラ目線で話しかけてきたり目配せしてくるんですよ。
それがすごくユニークで効果的。
深刻なシーンもあったりするんですけど、コメディ部分とのバランスが絶妙で、本当いい塩梅なんですよね。

男と結婚するだのどうだのって話が出てきますけど、メインの女性たちの心が男へ向くことは一切なくて最後はちゃんとハッピーエンドで終わるので、そこは安心して楽しんで下さい。

当時の町の雰囲気の再現度とか、馬車の迫力、リッチなご婦人たちが滑稽なくらい飾り付けてる頭や派手なドレスは目が楽しいですし、全8話があっという間でした。
このドラマ見た人は分かると思うんですけど、コロンやヨックモックが食べたくなります(笑

コロナで撮影が中断したり大変だったみたいですが、今絶賛S2が海外で放映中。
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日本で見られるようになるのはいつ頃かな。

因みにタイトルですが、この作品の脚本と監督を担当した女性のインタビュー動画を見て知ったんですけど、当時はレズビアンという言葉が存在せず「ジェントルマン・ジャック」というのはレズビアンを揶揄したような下品な表現で所謂ダイク的な意味合いらしいです。
確かに、作中ではそういう使い方で一瞬出てきます。
(主人公は普通に名前で呼ばれてて、ジャックなんて名前は全く出てこない)
なので、邦題のサブタイトルは意味合いが違うような…