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田舎で底辺暮らし

貧乏喪女がネットの気になる話題など、雑多にあれこれ書いてます。

 

アンネ・ホルト「凍える街」の感想

book 本 百合

ネタバレも多少含みますのでご注意を。

凍える街 (創元推理文庫)

凍える街 (創元推理文庫)

ハンネ・ヴィルヘルムセン、オスロ市警の腕利き女性犯罪捜査官。
クリスマス休暇直前の真夜中近く、緊急の呼び出しを受ける。
マンションで四人の他殺死体が発見されたというのだ。
被害者は海運会社の社長とその妻、長男、そして身元不明の男。
相続がらみの事件?だがハンネは、四人目の被害者のことが気になっていた。
伝説の女性捜査官が事件を追う、ノルウェーの人気警察小説。

主人公のハンネは非常に有能なレズビアン女性です(ちなみに、作者もレズビアン)。
この作品はシリーズもので、今までに「女神の沈黙」「土曜日の殺人者」「悪魔の死」と、三冊が出ています。
前作の悪魔の死が1999年で、そこから2014年に東京創元社に出版社を変えて続きが翻訳されるまで15年ですか。
何年も前に悪魔の死を夢中で読んだ私はここで勝手にシリーズは終わったと思っていたので、つい最近続編が出ていると知ったときは本当に嬉しかったのです。

で、いざ読んでみたら「???」となりました。
というのも、ハンネには前作までに17年も一緒にいたセシリーという医者の同性の恋人がいたのですが、この「凍える街」ではパートナーがトルコ人の大金持ちの女性になっていたのです。
しかも、住み込みの家政婦(過去の事件の関係者)までいて、三人で暮らしてるし、あれだけカミングアウトを恐れていたハンネが、職場の部下を堂々と家に招いている…。

よく分からないまま読み進めると、なんとセシリーが死んでいて、なぜかいい相棒であった男性のビリー・Tとそれを切っ掛けに肉体関係まで持ってしまったと、さらっと説明されていました(しかも、作中でも再びハンネからのアプローチで関係を持ちそうになる。ハンネもビリー・Tもパートナーがいるので完全にアウト)。
なんだそりゃ!!!

久々にこのシリーズを読んだので、私の記憶違いか?いや、そんな大事件があれば絶対に覚えてるはず…。
読んでいてかなり混乱していたのですが、ググッてみると「悪魔の死」と「凍える街」までの間に三冊も作品が出ているんです。
前作では36歳だったハンネは、42歳になってました。
その三冊の間で、めちゃめちゃハンネの身の回りで話が動いてて、それをすっ飛ばしての「凍える街」なので、完全に浦島太郎状態。
な、なんでそんな雑なことを…と、がっくり。
「凍える街」自体は、2003年にノルウェーで出版されていて結構前の作品なのです。
それならもうちゃんとシリーズを順に追って出して欲しかった…。
三冊飛ばしてるってどこにも説明がないので(あとがきにもなし)、普通に続編だと思って読んだ身としてはかなり騙された気持ちになりました。
シリーズを楽しみにしていたファンほど、これはショックなのではないでしょうか。
とにかく、この飛ばされてしまった三冊の翻訳をシリーズファンとしては強く望みます…!

あと、凍える街から出版社だけではなく翻訳者も変更になったのですが、感想などで翻訳が今までと比べていまいち、って意見を見かけたんですけど、これは確かに同意です。
前三作と比べると、雰囲気が軽くなったというかカジュアル気味というか、今までシリーズ通して漂っていた重厚でいい意味で固い雰囲気がなくなったかなぁ、と。
これは好みもありますので、読みやすくなったと感じる人もいるかもしれません。

肝心のストーリーは、最後の最後に一気に種明かしに向かうので、ミステリーを楽しめるのですが、かなり重い話でした。
ミステリーと性暴力というのは、切り離せないものですね…。
社会問題の闇をついているのはこのシリーズの特徴で、ハンネが現在まで苦悩している家庭不和の問題も心が痛みます。

最後は訳者のあとがきがあったのですが、ここに引っかかる文章が。
『マイノリティの人たちの葛藤や権利が本作のテーマとして注目されるのは本意ではない』とありました。
はっきり言いますが、私はこの作品の主人公がレズビアンでなければ絶対に読まなかった。
ミステリー部分より、ハンネのセクシュアリティや彼女が抱える世間への恐怖と家庭不和に苛まれる様子を、私を含め期待して楽しみ共感する読者もいるでしょう。
読者が作品からなにを汲み取ろうが、そこは読み手の自由のはずですが、表面的なミステリーを楽しめ、ということなんでしょうか。
そして、葛藤と権利を同列に並べることもよく分かんないし、主人公のセクシュアリティに関連することに注目されるのは面白くないんですかね。
のわりに、そのあとがきでは作者のアンネ・ホルト氏がミステリーにおける女性主人公の人となりの重要性を語っている部分を熱心に紹介していたり、この一文をわざわざ表明した意図がよくわかりませんでした。
ぶっちゃけ、かなり感じ悪い。
(女性の権利問題について言及しているのに、なにかの保険のように「別にフェミニストではありませんが」って枕詞を必ずつけるような、今まで死ぬほど見てきたあの既視感とどこか似ている)

とにかく、上記の理由もあり、話そのものよりその他の部分でがっかりすることが多く、かなり楽しみにして購入したのに何だかもやもやした作品でした。
しかし、レズビアンの主人公作品を翻訳で読めるだけ有り難いと思わなければならないのもまた切ない…日本じゃ未だにこんなミステリーシリーズないものね…。
ええ、なのでちゃんと続編の「ホテル1222」を買いました。
こっちはもうちょっと楽しめると良いのですが。

ホテル1222 (創元推理文庫)

ホテル1222 (創元推理文庫)