先日、皆川博子「総統の子ら」を読了。
- 作者: 皆川博子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2003/10
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皆川博子氏はとても好きな作家で、短編集「蝶」をたまたま本屋で手にとって知った。
驚くほど緻密で美しい文章にうっとりしてしまった。
ストーリーも濃密だ。
- 作者: 皆川博子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/12
- メディア: 単行本
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皆川さんの作品はもう結構あれこれ読んでしまっていて、そのうち読みつくしそうなので、それが怖い。
ずっと皆川さんの作品を読んでいたいので、100歳といわず120歳まででも長生きしてくださいと密かに祈っている(ご本人は既に80代半ば)。
で、「総統の子ら」だが、タイトルから分かる通り、皆川さんの十八番であるナチスがテーマ。
将来の国力充足を目的としてナチスが設立した「レーベンスボルン」を舞台に、総統公認の青少年団「ヒトラー・ユーゲント」の団員だった少年たちの心の軌跡をたどる、壮大な時代と人間のドラマ。
Amazon.co.jp: 総統の子ら: 皆川 博子: 本
ナチスのエリート養成学校「ナポラ」に入学する複雑な家庭環境の少年が主人公。
貴族出身で裕福だが少々気むずかしい親友を得て、彼の数歳年上でナチスのエリート街道まっしぐらな従兄に、主人公は強い憧憬を抱く。
ヒトラーに心酔し、深くナチスの中枢部に関わる従兄と、主人公の2つの視点で第二次世界大戦下のドイツを舞台にストーリーは進む。
ナチスというと、ユダヤ人の虐殺や排他主義的な残虐行為のイメージが強いと思うが、この作品はその認識で読むと当時のドイツのちょっと違う一面に出くわす。
当時は他のヨーロッパ諸国もユダヤ人への迫害は苛烈であったり、ジュネーブ条約を守らぬソビエト赤軍の猛烈な攻撃と、非人道的なドイツ人捕虜の収容所生活、米ソの占領軍の蹂躙など。
どこかナチ擁護的に読み取れなくもないのだが、しかしそれはユダヤ人へ自分たちが何の疑いもなくやってきたことでもあるのが皮肉にもなっている。
とにかく、戦争というのは国と国との利害関係が複雑に絡み合い、権力によって正義はいかようにも作られ、国民の純粋な愛国心というのは権力者によって簡単に利用されてしまうということが恐ろしく思えた。
その犠牲となり傷つくのが、主人公をはじめとする少年たちなわけだ。
小難しい話はさておき、皆川さんの作品の特徴はいくつかある。
圧倒的な筆力、重厚で緻密なストーリー、幻想的な耽美さ、奇形、そして男性同士の同性愛だ。
皆川さんの作品はヘテロ関係のものもあるが、ホモセクシャル的関係を織り交ぜた作品が物凄く多い。
ヨーロッパの解剖教室をテーマにしたミステリー「開かせていただき光栄です」は、完全に男性同士の恋愛を描いている。
しかも、続編まで出た。
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)
- 作者: 皆川博子,佳嶋
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- 作者: 皆川博子
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何が素晴らしいって、同性愛関係の陳腐な禁忌など作中では誰も口にはせず、そんなものなど扱わずとも涙が出るほど切ないストーリーをこのクオリティで作れるのだということを、読者に知らしめてくれた。
こういう作品が商業小説・漫画でどんどん増えてくれることを願う。
「総統の子ら」も、やはり同性愛的な関係が随所に盛り込まれていた。
皆川さんが養成学校「ナポラ」の存在を知って、作品を書こうと思ったというのにはちょっと笑ってしまったw
学校で親友とキスしたり、先輩の自慰の手伝いをしたりなど、皆川さんの好みが存分に読み取れる。
他にも歌舞伎をテーマにしたり、時代小説も書かれるのだが、やはりそれもホモセクシャルな関係が色濃い。
- 作者: 皆川博子
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皆川博子コレクションに収録されている長崎とマカオを舞台にキリシタン弾圧を描いた「海と十字架」「夏至祭の果て」なども、男性同士の強い繋がりが読み取れる。
まだまだ沢山あるのだが、ちょっと紹介しきれない。
皆川さんの作品は鈍器になるんじゃないかってくらい分厚い物が多く、手を出すのにはなかなか勇気がいるが、読み始めてしまうと次の本を手に取らずにはいられなくなる。
百合は大好物だが、BLにはさほど興味がない私がこれだけ楽しめているのだから、男性同士の関係が好きな方には、ぜひ読んでもらいたい。
あ、少ないけど百合作品もあるのだ。
- 作者: 皆川博子
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個人的には、皆川さんには百合を書いてほしいと強く願っている…。
フェミニズム的には「海賊女王」が大変面白かった。
戦闘シーンの臨場感も凄まじい。
- 作者: 皆川博子
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