田舎で底辺暮らし

孤独に生きながら雑多にあれこれ書いてます。

女性が社会の主導権を握る強烈な風刺作品Netflixの「軽い男じゃないのよ」の感想

Netflixになかなか面白そうな作品がきていました。
ネトフリのオリジナル映画「軽い男じゃないのよ」です。
フランスの作品。

あらすじとしては、女を口説くことしか考えてないようなミソジニー独身男が気を失い、目が覚めるとそこは女性が主導権を握る女性優位社会。
そこで被差別的な立場にある「男」の主人公は、男をとっかえひっかえしてる女性作家の秘書になります。
社会に見下される男にはどういう現実が待っているか、という話。

現実社会の男女を逆転させた風刺まみれの作品です。

主人公はミソジニーのお手本みたいな男・ダミアン。
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とにかく、オフィスでも真面目に質問してる女性職員相手にこうやってセクハラをする始末。
女と見れば、すぐにニヤニヤと見た目のことに言及し、ホモソーシャル仲間の男友達と女のジャッジばかり。
街中でもすれ違う女性を囃し立て、女性たちには不愉快そうにされる。
とにかく自分本位で態度に女を見下してるというのが滲み出ている。

そんなダミアンが間抜けなアクシデントで気を失い、目が覚めるとそれまでの社会とは男女の権力関係がまるっと逆転している世界にワープ。
そこからは、もう追いつけないくらいに男女反転した風刺描写が詰め込まれています。

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自室のクローゼットはカラフルでファンシーな服ばかりなので、混乱しながら渋々白Tシャツで出社するダミアン。
その格好を見た受付の男の子に「(乳首が)透けるから気をつけて」と言われ、いつもの調子でダミアンは「興奮する?」と返すのですが、そこで男の子は「危ないよ」と。
そう、この世界で性的に消費されるのは男性で、それは身の危険に繋がるってことなんですよね。そして、スキを見せた男がバッシングされる社会。
この「危ないよ」ってとこが本当に上手い。

他にも、街中の下着のポスターは半裸の男ばかりだし、とにかく肌の露出を求められるのは男。
イケてるスーツはこれ。
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バーでお酒を運ぶのもホットパンツの男性だし、ポールダンスを踊るのも男性。
男性は基本的に短いパツパツのズボンを履き、ムダ毛処理した足を出してるスタイル。
ダミアンは女性といい雰囲気になったと思ったら、もじゃもじゃの胸毛にドン引きされてめちゃくちゃ非難される。
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一方で、女性は脇毛も脛毛も放置だし化粧も無し。
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みんな楽ちんなズボン姿でブラなんかも必要ないし、会社でメインとして働いてるのも女性ばかり。
それまで会社で上司に気に入られていたダミアンの企画は小難しいとの理由で女性の上司にあっさり却下され、それどころか取引として性的関係を匂わされる。
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(まぁ、自分が散々女たちにしてきたことですね)
セックスシーンなんかも女が主導権握って、男を上からガンガン力任せに押さえつけて女が勝手にイッて即寝るって感じで改めてこうやって反転されるとめちゃくちゃ間抜けな絵面で笑えます。

女に馬鹿にされることに我慢ならず上司に歯向かいあっさり首になるダミアンでしたが、友人・クリストフが勤めていた男ったらしの女性作家アレクサンドラの秘書を代わりに名乗り出ます。
因みに、クリストフは妻が出産したので育児休暇のためにダミアンを推薦という流れ。
実はアレクサンドラは、前の世界でクリストフ(作家だったがこの世界では秘書)の助手をやっていた女性。
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自分になびかなかった美しい女と関係を持つ絶好のチャンスとばかりに、ダミアンは必死にムダ毛処理して着飾ってアレクサンドラに近付こうとします。
この世界のアレクサンドラはナルシシズム溢れる金持ちの人気作家で、とにかく男をとっかえひっかえ。
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要するに前の世界のダミアンのナルシシズムと傲慢さに、さらに権威をくっつけたような女。
マスキュリストなダミアンが物珍しく、スランプ中だったアレクサンドラは彼をネタにした小説「軽い男じゃないのよ」を書こうと画策して、本音を隠したまま関係を深めていきます…。

ステレオタイプすぎるって感じるところもありますが、この社会の根っこにある男女格差や差別構造を非常に分かりやすく反転させていて、かなり見応えがありました。ちょっとここでは書ききれないほど盛りだくさん。
自分が今まで女にしてきたことが我が身に返ってくるダミアンはすぐに苛立ち、女に指図できない立場が我慢ならない様子で、アレクサンドラにマッチョさで張り合おうとするのですが、金も名声も美貌もあるアレクサンドラと関係を持つことで気づけばどんどん従順になり、アレクサンドラのシャツにアイロンを掛けている…。
あれだけミソジニーひどかったダミアンが、被差別的な立場に慣れていってるのがホラーです。

ただ何よりのホラーなのは、ラストの展開ですよね。
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舞い戻った元の現実社会がどんだけ恐ろしい場所か、って突きつけられます。
ゾっとする。

一点、気になったのはアレクサンドラが美しすぎるという点。
男性主権だと主人公のダミアンのようにエロ顔の良い年したおっさんが若い女に手を出したりするわけですが、アレクサンドラがモデルみたいに様になりすぎてて、腹筋見せびらかそうが、自分のでかい写真を部屋に飾ろうが、高い車を乗り回そうが似合っちゃって嫌味になってないというか。
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まぁ、そりゃモテるよ、っていうね。
本来なら太った醜い20も年上の権威だけ振りかざすジジイだったりするわけだから、その女バージョンに挑戦してほしかったと正直ちょっと思いました。

カタルシスがあるラストってわけじゃないんですが、よく出来てると思います。
あと、スーツ姿の女性が沢山出てくるし、アレクサンドラはかっこいいし、そこだけでも結構楽しいです。