田舎で底辺暮らし

孤独に生きながら雑多にあれこれ書いてます。

 

インド映画「ただならない物語」の感想

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4つのストーリーからなるインドのアンソロジー映画です。Netflixオリジナル作品。
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面白かった!
インド映画はなんというかちゃんと作られてるな、っていうのをいつも感じるのが多いのですが、これも例に漏れず。
なにより、予告でレズビアンっぽい話がありそうだと思って見始めました。

ネタバレ含みますのでご注意を。



1つ目は「愛人」。
ヤクザ業で潤ってる権力者の妻になった女性は孤独を抱え(夫には他に愛する人がいると告げられ相手にされず完全な政略結婚)、次々に身近な男を誘惑していく中で出会った夫の部下になった新入りメンズとの燃え上がる不倫関係…と思いきや。
実はヤクザの親分がゲイで、妻の奔放さに我慢できず殺せ、とこのメンズに命じます。
しかも、妻と同じくこのメンズに愛の告白をし、従えばずっと守ってやると。
メンズは元々海外の銀行に就職が決定していたのに、この親分にかなり強引に仲間に引き入れられたり逆らうと身の危険がある状態。
そこでメンズの取った意外な行動は…って感じのお話。

ラストが出生賛美的で、妊娠させたことを贈り物的に表現するのがどうももやもやしたんですが、権威的なホモソーシャル構造のグロテスクさを誤魔化さずにゲイであろうとヤクザ業やってる普通に自己中なヤバイやつで報いを受けるって感じだったのは良かったです。
でも、それを媒介するかのように女が利用されたのはマジ意味わからんけど。
あとは、メンズの母親のキャラがよくて、そのへんはジェンダーバランスが考えられてる感じしました。

で、2つ目の「おもちゃ」は、「愛人」のラストを皮肉るかのような貧困層のサバイブっぷりが描かれているある種のホラー。
お金持ちの侍女として働く姉と幼い妹の話で、富裕層たちが自分の赤子を貧困層のお手伝いに世話させて都合いいときだけ可愛がってる「おもちゃ」って話に繋がっていくのは、とても良かった!
そんな斬新な殺し方ある!?ってちょっと笑ったけど(笑

3つ目は「濡れたキス」。
インド映画ではっきりレズビアン(と明言されるわけじゃないけど)要素が登場する作品は初めて見ました。
これがめちゃくちゃ良かったんですよ…。
工場で肉体労働やってる女性が主人公。
スキルはあるので本当は工場内の事務職を希望しているのですが、カースト下位という身分から採用してもらえず、偉い立場のおっさんに今は募集してないとか「お前は職人としての能力があるし、エクセルを知らんだろう?」とかはぐらかされて、自分以外は全員男で女子トイレもないという環境で働いています。
そんなときにその事務職枠についたのは、美しく若い既婚女性のプリヤ。
最初は反発心を覚えていた主人公ですが、無邪気で人懐っこいプリヤがぐいぐいくるのでどんどん親しくなります。
(主人公の元カノとプリヤの元カノ?というか親友が同一人物で、この辺の繋がりがふんわりしたままだったので気になる。広いインドであってもL界隈は狭いっていう全世界共通のネタなのかなw)

主人公はチェックシャツ(一体何枚チェックシャツ持ってんだってくらい色々種類がある)を着て無造作に髪の毛結んでて無愛想でぎこちない笑顔で、こういうL的な分かりやすいイメージってインドでも共通なんですね(笑

そして、やりとりが完全にレズビアンロマンスの文脈なんですよ(笑

一緒にバイクに乗ったり、あーんって食べさせたり、手相占いでいちゃついたり。
そうやって親交を深めていく中で、プリヤはエクセルなんて全然使えなかったことを知る。
でも、それは彼女が悪いわけじゃない、能力ではなく職場の華として雇ったのは男社会であるって主人公は分かってるので、ちょっと涙を流してプリヤには真相を伝えないで堪える賢い優しい人なんですよ。

そんなこんなやってるうちに、主人公の一人暮らしの家に招いてチュッとキスするなんとも言えない仲に発展。
そうやって親しさを増していくと、ちょっとずつプリヤの特権的な無邪気な残酷さが見えてくるわけです。

今度はプリヤが誕生日だからと主人公を家に招いたんですが、夫や義両親にチヤホヤされてる様子を見せて(ヘテロ要素絡むレズビアンロマンスの宿命)、でも私は優しい夫を愛せないの~おかしいのかしら、もしかして病気?って主人公に泣きつく。
主人公は「自分を受け入れるしかない」とプリヤを励ます意味も込めて自分がカースト下層であること、祖父母が助産師だったことを告げます(どうやらカースト下層の職業のようです)。
すると、プリヤは触れ合っていた手を反射的にスッと引く。
それが決定的でした。

その後も何かと主人公を頼るんですが、自分がチヤホヤされてる一方でひどい扱いされてる主人公を庇うことをしないで、ちょっと困った顔を見せるだけ。
主人公がカースト下層と知ったっていうのも少なからず関係してると思う。

もうね、その見せ方がすごい上手いんですよ…。
おっさん社会とそれにちゃっかり乗っかる女が主人公を雑に扱うグロテスクさがめちゃくちゃわかりやすく表現されてる。
それで主人公は心が折れちゃいます。

無邪気を装いながら都合よく自分のそばに寄ってくるプリヤの悩みに、主人公は冷酷なある答えを与えます。

その後の展開も怒涛で色々あるんですけど、ちょっと困った顔をするだけで差別されてる主人公を目の当たりにしても何も言わないで影に隠れるプリヤの残酷さが本領発揮。

プリヤがちゃんと主人公の身分を受け止め、彼女の不当な扱われ方を見て見ぬ振りせずにいたら絶対違った未来があっただろうなと思えるだけに、色んなことの積み重ねの結果でこうなったというのを短編ながらうまく表現してます。
それだけ日常的に差別されてる立場だった主人公。
特権階級が差別してきたり搾取してきたことのいままでのツケを払ってもらうって感じで良かったです。
レズビアン要素だけがメインテーマではなくて、もちろんそれは主人公を構成する要素ではあるけど、むしろ身分制とかフェミニズムとかの色合いが強めでした。
彼女がレズビアンだから迫害されたり苦悩したりするシーンはないですし(職場のアホな男にプリヤと対比され、女じゃないと馬鹿にされたりはあるけど)。
あと、これまでのフィクションだとレズビアンがヘテロ既婚者や彼氏持ちの女に翻弄されたり献身的に尽くすのみってのがセオリーで、レズビアンの身としてめっちゃもやもやするし、ヘテロ特権に乗っかって浮気するようなしょうもない女と付き合わんでもいいだろ、って思ったりするんですけど、これはそこへのカウンターって意味でも超良かったです。

もちろん、こういう女同士の分断を生んでるのはクソ男社会なんだけど、そこに隠れちゃってちゃっかり差別的な構造に乗っかり見て見ぬ振りするなら付き合いきれない、いつまでも舐めた態度ならこっちも相応の薄情さで対応しますよ、っていうちゃんとそれを可視化してくれてるお話でした。

プリヤにとある決断をさせるときに主人公が過去について流産して夫に逃げられたとさらっと発言するんですけど、それが真実なのかでまかせなのかは謎だったな。
元カノとの動画見て泣いてたりはするけど、夫の面影なんて一ミリもなかったので(笑

4つ目は「沈黙に包まれた会話」
これは娘が後天的にろう者になり手話を学んだ有閑マダム(夫は仕事で忙しいを理由に手話を学ぶのを拒否)がたまたま訪れたギャラリーでろう者のイケメンカメラマンと出会い、既婚隠して不倫関係になり、そしてバレるっていう、特に取り上げることのない話でした。
とりあえず、不倫する人は自己憐憫の涙流しても、自分にとって都合いいタイミングで都合いい方をあっさり選択するので、幸せな結末はないですね。

音楽とともに踊るみたいな作品ではなく、全体的に結構エグめですがおすすめです。