食エッセイは大きな外れがないので、好んで読む。
先日、たまたま手にとった「風の食いもの」という本がなかなか面白かった。
- 作者: 池部良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/08
- メディア: 文庫
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恥ずかしながら、池部良という人を知らなかった。
スマートな長身とインテリな雰囲気で、戦前は若手俳優として人気が出て、戦後は実力派俳優に。
同時に作家でもある、なんだか多彩な人だ。
戦前、俳優として活躍する真っ最中に、戦争に招集。
中国山東省に派遣され、5年間兵隊さんをやっていたとか。
「風の食いもの」では、そんな戦時下でのエピソードがふんだんに記されている。
どれも3ページほどの短いエッセイを集めたもので、美味しい料理の話よりもゲテモノよりな話が大半だった。
うなぎの代わりに食べた蛇の蒲焼き、生きた猿の脳みそなど…。
どんな理由で戦争をやっているのかもよく分からないまま招集され、なにかといえば天皇の思し召しだと配給される食事。
まともな食事は招集されたその日だけで、それからはひもじさとの戦いだったようだ。
作中、繰り返し綴られているのは、実際に戦争するのは兵士なのに飯も満足に食わせてもらえない、そんな戦いに命なんかかけられるか、ということ。
薄い沢庵に、具も入ってないような底の見える味噌汁、ほんの少量の雑穀の飯。
船での移動では泥のように溶けて骨だけ残った謎の魚の煮物ばかりを出され、食えたものじゃなかったという。
常に空腹との戦い。
池部氏の上官が、肉料理を出す中国の食堂を見ながら、兵隊の飯をケチるような国が戦争に勝てるか?、と愚痴っているエピソードもあった。
乗り込んだ輸送船でアメリカ軍の攻撃にあい、南の島へ命からがら辿り着いたところ、そこには大量の食料の備蓄があり、3ヶ月ほど70人の部下たちとすることもなくのんびり過ごしていたら、再びアメリカ軍の大爆撃をうける。
ジャングルに逃げ込み、幸いにも全員無事だったが、食べ物や弾薬などは全部ふっとばされ、そこからは飢餓との勝負になった。
ナマケモノやミミズまで食べ、地獄の餓鬼のようにみんなやせ細ってまともに歩くのも難しかったという。
実際、戦争で亡くなった兵士たちは華々しく戦って死んだのではなく、その多くが餓死だ。
戦没者230万人:6割「餓死」の学説も 無謀な作戦が惨劇招く - 毎日新聞
戦後も食糧難で食材を手に入れるのが厳しい状況が続く。
そんな自身の様々食にまつわるエピソードを、どこかユーモラスを交えて飄々と綴っている良作だった。
しかし、日本のお偉いさんたちのケチ臭さと無意味な精神論は、今のブラック企業をはじめとする労働体制などにも垣間見えて、これはもはや国民性なのか、とさえ思う。
最近ではこんな盗人猛々しいニュースもあった。
【茨城新聞】実習生受け入れ5年停止 残業代未払い、JAほこた27農家処分 東京入管
処分を受けた農家の男性は「彼ら(実習生)の代わりはなく死活問題だ。今後どうやっていけばいいのか」と困惑した様子。
別の男性は「割り増し分が必要だと分かっていれば残業なんかさせなかった」と憤りを隠さず、同JAの対応にも不満を募らせている。
労働させておいて正当な賃金を払っていないのに、「そんなこと聞いてない!」と怒っている…。
自分たちより立場が弱いものを、使い捨ての駒のように扱う共通点。
ハードワークでまともな報酬を払わないから、人材が集まってこないという悪循環は、すき家の閉店続出でもニュースになったが、飲食店や介護業界では顕著だ。
変化を嫌うマッチョ社会な日本で、こういうことを改善していくのは大変困難なことのように思えるのがなんとも絶望的…。
作品の最後、戦争における上層部たちの判断と、精神論ばかり振りかざす愚かさを嘆いている。
そして、今の政治家たちの論調がそれらと何やら似ている、と作者は危惧していた。
- 作者: 志村三代子,弓桁あや
- 出版社/メーカー: ワイズ出版
- 発売日: 2007/02
- メディア: 単行本
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- 作者: 池部良
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/08
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