田舎で底辺暮らし

孤独に生きながら雑多にあれこれ書いてます。

「女神の見えざる手」の感想

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大手ロビー会社で辣腕をふるうエリザベスは、銃擁護派団体から仕事を依頼される。女性の銃保持を認めるロビー活動で、新たな銃規制法案を廃案に持ち込んでくれというのだ。信念に反する仕事は出来ないと、エリザベスは部下を引き連れ、銃規制派のシュミットの小さなロビー会社に移籍。奇策ともいえる戦略によって、形成を有利に変えていく。だが、巨大な権力を持つ敵陣営も負けてはいない。そんな中エリザベスの過去のスキャンダルが暴かれ、スタッフに命の危険が迫るなど、事態は予測できない方向へ進んでいく…。
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ロビーとは裏であれこれ根回しして政治支援する私的活動というものらしいです。
日本だとあんまピンとこないけど、政治の裏世界というかクライアントのために資金調達したり、敵方の情報得るためにためにちょっとグレーゾーンなことしてみたり、スパイ送り込んだり…ありとあらゆる情報合戦する大手の会社でエースとしてばりばり仕事しているのが主人公のエリザベス。

この作品が興味深いのは、天才的なロビイストの主人公は作中ほぼ出ずっぱりなのにも関わらず彼女のバックグラウンドのようなものはほとんど提示されない点です。
彼女が取る行動、ときに冷酷だったりすごく私情を挟んでいたり、どこか辻褄が合わなかったり、そういうものに理由の説明をつけていないんですね。
政治を裏で動かす恐ろしく有能な人間、それが男だった場合、その振る舞いにいちいち説明を求められたりはしないし観客も納得する。
部下たちをビジネスライクに利用して恨みを買っても、戦略の秘密を打ち明けなくても、金で女を買っても、男はそういうものだろう、と。
でも、女がそれをやると、なにかと理由を求められる。
何も考えずに作ればどうしたってホモソーシャルに染まるテーマを、非常に注意深く女で描き直したような味わいがあるというか、そこがこの作品の魅力の一つだと思います。

そして、とにかく主演のジェシカ・チャステインって人の演技力が光っててめちゃめちゃ良かった!
ちょっとツッコミどころがないわけでもないですが、この人の演技力でねじ伏せてる感じもあって、これは一見の価値ありです。

エリザベスが敵陣営からの策略で倫理違反を追求され尋問されるシーンからの回想という形で進んでいくので、非常にハラハラ・ドキドキする展開ですが、最後の展開がとってもカタルシスがあって最高で、観客がみたかったものをこれ以上なくドン!と見せ場として用意してくれていたのが嬉しかった。
そして、その後の静かな余韻とラストを観客側に委ねたのも、いい。

何より、かなり強い百合でした。

若干のネタバレになりますが、メガネっ子の部下との関係、敵対しててもそれはそれでめっちゃ百合じゃん、と思っていたらあの展開だったので、完全に超百合じゃん!とテンションが上りました。
それに、エリザベスの償いも倫理違反だからではなく、命を危険にさらしてしまった部下の女性へ捧げる償いにしか見えなくて、それもまた超百合だし。
彼女なりに部下たちに対しては一応誠実であったってことを最後の最後に持ってきたのは、本当よかった。

ツッコミどころとしては、エリザベスが関係を持つ男娼の存在はさほど深い意味があるわけじゃなく、アンチテーゼ的な意味も含めて女が男を金で買うっていうシーンが欲しかったということなのかなと思うけど、なんとももっさりした男だったので金払ってまで?と思ってしまった。(世間的には十分イケメン枠だったりするんだろうか…)
なにか物語のキーパーソンなのかと思ったら何もなく、少しヒヤリとさせて、謎のプロ意識を発揮してフェードアウトという流れだったものだから、なんだか肩透かしを食らったというか、もうちょっとわかりやすいイケメンで使い捨て的演出だったらああそういう文脈なのね、と理解できたかも。
ラブシーン要員って側面が強くて、あんま必要性は感じなかったかな。

あとは、作中ではフェミニスト団体に根回しするシーンがあって、あっちはそれだけフェミニズムにパワーがあるんだな、って羨ましくなりました。
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そもそもが、銃擁護派の男たちが女たちの賛成をあまり得られずコントロールできないっていう物語の始まりですしね。
主演のジェシカ・チャステインも女性の権利向上のために色々やってるけど、この映画の中ではフェミニズムに興味ないのでとか言っちゃうキャラなんですよね(笑)

どんでん返しが面白かったし、強めな百合だったし、おすすめです!