田舎で底辺暮らし

孤独に生きながら雑多にあれこれ書いてます。

村田喜代子「飛族」の感想

ツイッターで見かけて気になったのでKindleで購入。

飛族

飛族

この島にいるのは、ふたりの老女だけ

朝鮮との国境近くの島でふたりの老女が暮らす。
九二歳と八八歳。
厳しい海辺暮らしとシンプルに生きようとする姿!
傑作長編小説。

「わしは生まれて九十年がとこ、この島に住んで、
今が一番悩みもねえで、安気な暮らしじゃ。
おまえは妙な気遣いばせんで、
さっさと水曜の朝に船で去んでしまえ」
――かつて漁業で栄えた養生島に、
女二人だけで暮らしている。
母親のイオさんは、九十二歳。
海女友達のソメ子さんも、八十八歳。
六十五歳のウミ子が、ふたりを見ている。

村田喜代子氏の作品は小説もエッセイも結構色々読んでいて、好きな作家。
今回の「飛族」も村田氏が得意とする女性たちの関係性とふんわりファンタジーテイストが入り混じって、するすると読みやすい内容でした。
老女2人が暮らす島自体は架空の島のようで、場所的には長崎あたりなのかな。

老い先短い老女が2人だけで島で暮らすのはかなり難しいところまできていて、どうしたって他の人達のケアが必要なんだけど、頑固な老女たちは島を動きたがらない。
ウミ子は今住んでいる大分にある家に母を引き取りたいが、でもそうすると母の友達のソメ子は身寄りもなく島で一人になる…。
この難しい三人の関係の落ち着きどころってウミ子が島で老女たちの面倒を見るっていう一つしかなくて、色んなトラブルがありつつも日常が進み、そこへふんわり物語が進んでいく。
読者的にはこのホッとする展開って、現実では金銭面や老人たちの体調のシビアさとか色々絡んできてきっとかなり難しいと思う。
そういう点を含めて色々とファンタジーな話だったのかも。

ただ一方で船の燃料費とか外国からの密航船、国境の問題など、島暮らしの具体的なシリアスな部分にも結構触れられていました。
昨今は、クソ政権のせいかテレビでも他国へのヘイトなどを積極的にばら撒いているようで(テレビは全然見ないけど、Twitterでそのひどい内容についてよく流れてくる)、密航船とかの辺りは読んでて結構これ大丈夫なのか?と、ひやりとする感じもあったのですが、作中の役所職員が管轄の無人島を回りながら人がいるアピールで君が代を流すのを、主人公のウミ子が大変不気味がって嫌がったりで一応それなりにバランスを取ってる感じはありました。

興味深かったのは、その役所職員が30代の好青年で、それを60半ばのおばちゃんというかもう初老な主人公(夫はすでに亡くしている)がひっそり自分の癒やしとして彼を見て接していること。
だからといって、彼を猫可愛がりするわけでもなく、寧ろ主人公が年配者として気を使ってもらっている。
若い女がおっさんたちにとって都合よく描かれるのって当たり前になってるけど、これはその反対っていう感じが面白かったです。

個人的には、終盤に台風が島を直撃して主人公母娘の家が壊滅したとき、身寄りがなくなんとなく処遇に困る存在だったソメ子が

ウミちゃん、心配ねえよ。 あたしの家があるじゃろ。あたし方でみんなで暮らせばよか、よか

ってウミ子に言うのが、なんかジンときた。
こういうとこが村田氏の上手いところで、読者が欲している女性コミュニティの助け合いとか絆を提示してくれる。
恋愛ものじゃないし、読みやすいので割とおすすめです。

ちょっと気になったけど、老女たちのセリフは九州北部あたりの方言が割とがっつりで(作者が確か北九州あたりの出身で他の作品でも九州の方言がよく出てくる)、私は九州出身なので普通に読めるけど方言がわかんない人とかでも何となくで分かるもんなのかな…?